膵臓がんに使用できる抗がん剤は、
- ゲムシタビン単剤
- TS-1(テガフール+ギメラシル+オテラシル)単剤
- ゲムシタビン+エルロチニブ
- ゲムシタビン+アルブミン懸濁型パクリタキセル
- FOLFIRINOX(オキサリプラチン+イリノテカン+フルオロウラシル+レボホリナートカルシウム併用療法)
これら5種類とされています(2016年9月現在)が、手術ができるかどうかで使用できる薬剤が変わってくるということでしたね。
今回は転移または再発したため手術で癌の切除ができない場合に使用する抗がん剤について、詳しく解説します。
切除できた後に使う抗がん剤については、こちらの記事をどうぞ。
手術で切除できなかった場合に使用する抗がん剤<選択率:高>
手術ができなかった場合に用いられる抗がん剤として、第1選択薬として候補に挙がるものが2つあります。ひとつは「FOLFIRINOX療法」、もうひとつは「ジェムザール+nab-パクリタキセル療法」です。
第1選択薬 その1■ FOLFIRINOX療法
FOLFIRINOXは複数の抗がん剤を組み合わせて投与する方法で、抗腫瘍効果は高いのですが、同時に強い副作用も出るのが特徴です。
抗腫瘍効果:抗腫瘍効果とは、薬剤によりがんが縮小したり死滅するなどの効力を表すこと。
[成分]
フルオロウラシル(代謝拮抗薬)
レボホリナート(フルオロウラシルの作用増強剤)
イリノテカン(トポイソメラーゼ阻害薬)
オキサリプラチン(白金製剤)
代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
フルオロウラシルの作用増強剤:レボホリナートはビタミンの一種である葉酸からできており、フルオロウラシル投与のときにこの葉酸が増えると、フルオロウラシルがDNA合成で「TS(チミジル酸合成酵素)」と結合してがん細胞の増殖を抑制するのを、さらに増強します。副作用で強い骨髄抑制、下痢が起こります。
トポイソメラーゼ阻害薬:細胞核のなかにある「トポイソメラーゼ」。DNAを複製する際、らせん構造のままだと複製ができないため、トポイソメラーゼが作用し、一度ねじれをほどいて直線状に戻してから複製し、再結合して元に戻します。ねじれをほどき再結合する作用を阻害するため、がん細胞は増殖ができなくなります。
白金製剤(プラチナ製剤):プラチナはDNAを構成する塩基(A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン))に結合するため、がん細胞はDNA結合ができず、増殖を抑制されます。副作用で強い吐き気が出ます。
[投与方法]
①~⑥を1日目に行い、⑦はその後から3日目にかけて行います。
これを2週間ごとに繰り返していきます。
①~⑦の詳しい内容をご説明します。
以下、FOLFIRINOXの処方例
(体積1平方メートルあたりの投与量)
※各々の体積や体調、身体的特徴などにしたがって、この投与量を調整します。
- <30分かけて点滴静注>
【アロキシ静注】 0.75mg + 【デカドロン注】 9.9mg + 【生理食塩液】 100ml
補足
※アロキシ:吐き気止め
※デカドロン:ステロイド薬。抗がん剤による皮疹やアレルギー倦怠感を抑えます。点滴を行わないと抗がん剤によるこれらの副作用が増える恐れがあります。 - <2時間かけて点滴静注>
【エルプラット点滴静注液】 85mg/㎡ + 【5%ブドウ糖液】 250ml
補足——————————————————————
※エルプラット:オキサリプラチン(白金製剤)
白金製剤(プラチナ製剤):プラチナはDNAを構成する塩基(A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン))に結合するため、がん細胞はDNA結合ができず、増殖を抑制されます。副作用で強い吐き気が出ます。 - <30分かけて点滴静注(必要に応じて)>
【生理食塩液】 50ml + 【硫酸アトロピン】 0.5mg
補足——————————————————————
※硫酸アトロピン:唾液、気管支粘膜、胃液、膵液などの分泌・消化管運動の抑制をする(副交感神経の働きを抑える)。抗がん剤により副交換神経が活性化することにより、下痢などの症状が起こるが、硫酸アトロピンを事前に投与することで症状をコントロールできることが多い。 - <2時間かけて点滴静注>
【アイソボリン点滴静注用】 400mg/㎡ + 【5%ブドウ糖液】 250ml
補足
※アイソボリン:レボホリナート(フルオロウラシルの作用増強剤)
フルオロウラシルの作用増強剤:レボホリナートはビタミンの一種である葉酸からできており、フルオロウラシル投与のときにこの葉酸が増えると、フルオロウラシルがDNA合成で「TS(チミジル酸合成酵素)」と結合してがん細胞の増殖を抑制するのを、さらに増強します。副作用で強い骨髄抑制、下痢が起こります。
- <1時間30分かけて点滴静注>
★側管【カンプト点滴静注】 180mg/㎡ +【5%ブドウ糖液】 250ml
補足
※カンプト:イリノテカン(トポイソメラーゼ阻害薬)
トポイソメラーゼ阻害薬:細胞核のなかにある「トポイソメラーゼ」。DNAを複製する際、らせん構造のままだと複製ができないため、トポイソメラーゼが作用し、一度ねじれをほどいて直線状に戻してから複製し、再結合して元に戻します。ねじれをほどき再結合する作用を阻害するため、がん細胞は増殖ができなくなります。※側管:メインの輸液ルートにY字やT字でつながった管から注入する。
- <前回で点滴静注(短時間で注射)>
【5-FU注】 400mg/㎡ + 【生理食塩液】 100ml(溶解液)
補足
※5-FU:フルオロウラシル(代謝拮抗薬)
代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
- <46時間かけて持続静注>
【5-FU注】 2400mg/㎡
[副作用]
・好中球減少
・血小板減少
・下痢(水様性下痢)
・嘔吐
・末梢神経障害
・肝機能障害(総ビリルビン上昇)
・脱毛症
好中球:血液中にある白血球の45~75%を占めており、減少すると感染症のリスクが高まる。
血小板:血小板には、血管の外に出た血液を凝固させる働きがあるので、減少すると出血が起きやすく、また出血が止まりにくくなります。
末梢神経障害:筋力低下が出たり、手足にしびれや痛み・熱さ冷たさの感覚が鈍くなったり、下痢や便秘・発汗異常・立ちくらみや排尿障害などが起こります。
総ビリルビン:ビリルビンとは、古くなった赤血球が破壊されるときに生成される黄色い色素で、血液により肝臓に運ばれ、胆汁中に捨てられます。肝臓で処理される前とされた後を合わせて、総ビリルビンと言います。通常血液中には、ごくわずかしか存在していません。
これらの副作用が現れることがあり、場合によっては重篤な症状が見られることもあります。(副作用が強ければ治療は中断されます。)
その為、化学療法に十分な経験のある医師のもとで治療を進める必要があります。
第1選択薬 その2■ジェムザール+nab-パクリタキセル療法
GEM単独療法に比べ、併用療法の方が有意な生存期間の延長を得られる可能性があります。しかし、末梢神経障害が高頻度で現れるため、症状に応じた休薬や再開を考える必要もあります。
[成分]
ゲムシタビン(代謝拮抗薬)+[アルブミン+パクリタキセル]
代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
アルブミン:肝臓で生成されるタンパク質の一種。血管内に水を保持する役割を持つ。
パクリタキセル:「微小管脱重合阻害薬」。細胞分裂の際にDNAを複製したあと、細胞を2つに分けるときに糸のような「微小管」が束になり(これを重合という)両脇から引っ張ることで2つに分かれます。分けたあと、束になった微小管はバラバラにならなければ細胞分裂は完了しないため、パクリタキセルは束(重合)をほどくのを阻害する役割をして、がん細胞を分裂させず、死滅させます。
[投与方法]
1日目、8日目、15日目に3週連続投与し、22日目を休薬する4週1サイクルで行います。
以下、ジェムザール(ゲムシタビン)+nabパクリタキセル療法の処方例
(体積1平方メートルあたりの投与量)
※各々の体積や体調、身体的特徴などにしたがって、この投与量を調整します。
- <30分かけて点滴静注>
【アロキシ静注】 0.75mg + 【デカドロン注】 6.6mg + 【生理食塩液】 100ml
補足
※アロキシ:吐き気止め
※デカドロン:炎症を抑える、いわゆるステロイド。抗がん剤による皮疹やアレルギー倦怠感を抑えます。点滴を行わないと抗がん剤によるこれらの副作用が増える恐れがあります。 - <30分かけて点滴静注 >
【アブラキサン点滴静注用】 125mg/㎡(アブラキサン実投与量5mgに対し、1mlの生理食塩液に溶解)
補足
※アブラキサン:パクリタキセル(もともとは「タキソール」という商品名で水に溶けにくかった)を人血清アルブミンと結合させ、水(生理食塩水)でも溶けるようになった製剤。ステロイドで副作用の回避ができる - <30分かけて点滴静注>
【ジェムザール注射用】 1000mg/㎡ + 【生理食塩液】 100ml(溶解液)
補足
※ジェムザール(ゲムシタビン)
代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
[副作用]
・骨髄抑制
・末梢神経障害
・脱毛症
・発疹
・嘔吐・便秘
・食欲不振
骨髄抑制:白血球、赤血球、血小板がうまく作られなくなり、感染症にかかりやすくなったり(発熱する)、出血しやすくなったり、貧血症状が出たりします。
末梢神経障害:筋力低下が出たり、手足にしびれや痛み・熱さ冷たさの感覚が鈍くなったり、下痢や便秘・発汗異常・立ちくらみや排尿障害などが起こります。
FOLFIRINOX同様、副作用が強く出るのでこちらも化学療法に十分な経験のある医師のもとで治療を進める必要があります。
手術で切除できなかった場合に使用する抗がん剤<選択率:低>
第2選択薬 ■ ジェムザール+タルセバ療法(ジェムザール単独投与、TS-1)
遠隔転移膵癌においてGEM単剤に比べ、有意な生存期間の延長が見られます。しかし、局所進行膵癌においてはGEM単剤よりも生存期間が短いため推奨されていません。また、副作用やコストの問題もあります。
遠隔転移膵癌:がん細胞が最初に発生した場所(膵臓)から、血管やリンパ管に入り込んで血液やリンパ液の流れに乗り、遠く離れた別の臓器や器官に移動し、そこで増えることを言います。
局所進行膵癌:膵臓がんが、遠く離れた臓器まで転移をしていないことを言います。
[成分]
ゲムシタビン(代謝拮抗薬)+エルロチニブ
代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
エルロチニブ:分子標的薬で、国内の商品名は「タルセバ」。チロシンキナーゼという酵素が活性化すると、細胞の異常増殖のシグナルを送ります。そのシグナルを受け取るがん細胞の受容体を遮断するのがエルロチニブで、細胞の増殖を抑制します。
[投与方法]
以下、ジェムザール+タルセバ療法の処方例
(体積1平方メートルあたりの投与量)
※各々の体積や体調、身体的特徴などにしたがって、この投与量を調整します。
※各々の体積や体調、身体的特徴などにしたがって、この投与量を調整します。
- 点滴投与
【デカドロン注】 6.6mg + 【生理食塩液】 50ml <15分かけて点滴静注>
補足↓
※デカドロン:炎症を抑える、いわゆるステロイド 。抗がん剤による皮疹やアレルギー倦怠感を抑えます。点滴を行わないと抗がん剤によるこれらの副作用が増える恐れがあります。
【ゲムシタビン】 1000mg/㎡ + 【生理食塩液】 100ml <30分かけて点滴静注>補足↓
ゲムシタビン 代謝拮抗薬:がん細胞が増殖する際にはDNA合成を行うが、DNA合成で必要になる材料(核酸、葉酸)のひとつである核酸と似た形の物質を投与し、がん細胞に取り込ませてDNA合成を阻止する方法。
【生理食塩液】 50ml <15分かけて点滴静注>
- 経口投与
【エルロチニブ】 100mgを連日1回内服する。
エルロチニブ:分子標的薬で、国内の商品名は「タルセバ」。チロシンキナーゼという酵素が活性化すると、細胞の異常増殖のシグナルを送ります。そのシグナルを受け取るがん細胞の受容体を遮断するのがエルロチニブで、細胞の増殖を抑制します。
[副作用]
・間質性肺炎
・骨髄抑制
・肝機能障害(AST上昇)
間質性肺炎:肺のふくらみが悪くなり、肺活量が落ち、酸素の吸収効率も悪くなるため、息苦しくなったり、咳が出たりします。
骨髄抑制:白血球、赤血球、血小板がうまく作られなくなり、感染症にかかりやすくなったり(発熱する)、出血しやすくなったり、貧血症状が出たりします。
AST:体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要な働きをする酵素で、肝細胞もしくは心臓や腎臓などの臓器に多く存在しています。何らかの異常で肝細胞が破壊された時に、血液中にASTが漏れ出します。
第一選択薬よりは副作用は落ちるものの、ジェムザール単独投与と比較し、上乗せ効果がわずかである為、広く普及していないことに注意が必要です。
抗がん剤の種類についてはこちらの記事をどうぞ。
参考資料
間質性肺炎 KOMPAS(慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト)
総ビリルビン<非抱合型(間接)・抱合型(直接)ビリルビン> 肝機能ナビ(田辺三菱製薬)
免責
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主人が亡くなった今も、ずっと拝見させていただいています。とても詳しくて分かりやすくて、ホントに為になるサイトです。ブログを書かれている方でも知らない方が多く、つい、教えてしまっています。無断で教えてゴメンなさい。抗がん剤の使用については常々考えていました。病院や主治医の先生によっても違いが大幅にある事。使用例にどれだけのエビデンスがあるのか? 今更ながらもっと早くしっかりと勉強すれば良かったと反省します。
これからも拝見させていただきます。これからは何か私にできる事を見つけて前進して行こうと思ってます。
森様
お久しぶりです。
今回の記事はかなり力を入れて作ったので、「為になるサイト」とおっしゃっていただき嬉しい限りです。
また、私たちのサイトをより多くの方に知っていただきたいので、まだ知らない方にお教えいただけるのは有難いことです。
何より、こうしてまたコメントをいただけることをとても嬉しく思います。
抗がん剤の使用については、患者さん自身が正しい情報をもって判断すべきだと考えるのですが、その情報が手に入りづらいのが現状だと思います。
今後も、抗がん剤について正しい・詳しい・そして何より普通の人が読んですぐ分かる情報を提供して、患者さんの判断の手助けができればと思っています。
この先私たちのような遺族の方々にもご協力をしていただき何か企画していきたい、と現在思考を巡らせているところです。
まだ形になるのは少し先かもしれませんが、その時にはぜひご協力いただければ幸いです。
拙いサイトではありますが、今後もよろしくお願いします。