私たちが実際に知りたいと思った「膵臓がん」の基本的な情報をひとまとめにしてご紹介します。
※ざっと読みたい方へ。太字とオレンジ色の部分を流し読みすればわかるようになっています。
目次
がんって何?
がんは、普通の細胞から変異した、「異常な細胞のかたまり」のことです。
人間のからだは約60兆個もの細胞からできていて、
それらの細胞は体の部位ごとに異なるルールで細胞分裂を繰り返しています。
決まったルールを無視して分裂し、増殖してかたまりになるのが「腫瘍」といわれるものです。
生命に危機を及ぼす腫瘍のことを「悪性腫瘍」、危険性のないものを「良性腫瘍」といいます。
がんは「悪性腫瘍」に分類されます。ポリープは「良性腫瘍」です。
なぜがんで死んでしまうのか?
どうして「細胞のかたまり」が人を死に至らしめるのでしょうか。
それは、「がん」がもつ3つの特徴が原因です。
がん特有の3つの特徴
①勝手に増える(自律性増殖)がんは正常な新陳代謝を無視し、勝手に増殖していきます。止まることなく、増え続けます。 |
→死亡する原因①異常な細胞が増えることで、正常な細胞の数が少なくなり、各器官の機能が低下する。 臓器が上手く機能できなくなり、肺がんであれば呼吸に関する細胞が減ることで呼吸不全に、肝臓であれば代謝・解毒機能が衰え、アンモニアによる昏睡状態やタンパク質が作られないことによる腹水や胸水を起こし呼吸機能が弱ります。 |
②広がる(浸潤と転移)「浸潤」・・・染み出るように広がる性質を持つ。 血管やリンパ管をすり抜けたり、臓器の内部から臓器の外へ染み出て広がるので、浸潤の有無がステージⅢとⅣの分かれ目になります。 「転移」・・・血液やリンパを通り、体中に広がる。 血管やリンパ節ががんに侵されていた場合、がん細胞が血液やリンパ液に乗り、他の臓器に移動しやすくなります。つまり転移の可能性が高くなります。(がん細胞は目に見えず、検査でもわからないことが多い。転移は肝臓、肺、腎臓で起こることが多いと言われている。) |
→死亡する原因②どんなところでも広がって腫瘍を作るので、臓器や血管を圧迫し、機能を低下させます。 |
③栄養を奪う(悪液質)がん細胞は正常な細胞が必要とする栄養をどんどん奪います。 それと同時にがん細胞から毒性物質が出ることにより、食欲低下や全身の倦怠感、体重減少がおこり、体が弱ります。 |
→死亡する原因③がん細胞は増えるためにからだの栄養を奪うため、免疫力が落ちる。 正常な細胞が使うべき栄養を横取りするため、どんなに食事をとっても痩せてしまいます。すると体の免疫力が落ち、肺炎を起こしやすくなってしまいます。 ◆悪液質についての最新記事⇒「悪液質の仕組みと対処法」 |
(④再発)
がんの治療をした後、 |
がん発生の仕組み
私たちの体の細胞はだいたい90~120日サイクルで、古い細胞が分裂した新しい細胞と入れ替わり、新陳代謝されます。
たまに、分裂するときにミスコピー(DNAに傷のついた細胞ができること)が起こることがあります。
このミスコピーした細胞ががんになる原因のひとつです。
健康な人でも、がん細胞の元になるこのミスコピー細胞を一日約5,000個(一日の細胞分裂約5,000憶回のうち)作っていると言われています。
体の防衛機能があるので、これらすべてががん化するわけではありませんが、もちろんミスコピー細胞が増えるほどがん化のリスクは高まります。
ミスコピーしやすくなる外的要因として、以下のようなものが挙げられます。
たばこはよく知られた発がん性物質です。
その他にも、食品添加物、食べ物のこげの多量摂取、脂質や塩分の多い食事、紫外線、放射線。特に紫外線は皮膚がんへの影響があります。こう見ると比較的身近にあるものばかりです。
このような外的要因で遺伝子に傷がつくことが現在わかっています。
ミスコピーって具体的に何?
正常な細胞の遺伝子に2~10個の傷がつくことで、がん細胞の元が発生します。
遺伝子=DNAの配列が傷により変わってしまい、
変なDNA配列の細胞が生まれてしまいます。
DNA配列がおかしいままさらに分裂すると、
もっと多くの傷がつき、さらにおかしな細胞が生まれてしまいます。
これを繰り返すことで、細胞が完全にがん化します。(多段階発がんという)
▼がんの発生・がん化する仕組みは、下の記事で詳しく解説しています。
なんで増えるの?
DNAに決まった傷がつくと、細胞は過剰に働くようになり、
タンパク質を大量に作るようになってしまいます。
すると、細胞が異常に増殖するようになります。
これががん細胞が増えつづける理由です。
体は、がん細胞を発見したら防衛する!
おかしな細胞を発見すると、
「がん抑制遺伝子」と呼ばれる遺伝子が、傷ついたDNAの修復や増殖停止、
アポトーシス(細胞の自殺)を起こさせ、増殖を抑制します。
前述した一日5,000個もできているがん細胞の元は、このがん抑制遺伝子によって消されているので通常はがん化までいきません。
それでもがん細胞ができる理由は?
ミスコピーが多すぎたり
がん抑制遺伝子が弱っていたりすると
ミスコピーした細胞を削除しきれず、残ってしまいます。
ミスコピーが多くなる原因① 加齢
年を取るとどうしてもコピーの精度が落ちます。
ミスコピーが多くなる原因② 外的要因で傷が増える
また、外的要因で傷のできた細胞の数が増えれば、分裂した際ミスコピーも多くなります。
ミスコピーが多くなる原因③ 免疫力の低下
体温が低くなったり、免疫力が下がってしまうと、がん抑制遺伝子が弱まり削除が追い付かなくなります。
残ったがん細胞の元がどんどん分裂を繰り返し、がん化します。
膵臓がんとは
全国統計で、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんに次いで死因の第5位が膵臓がんです。
近年日本では増加傾向にあり、毎年3万人以上もの人が膵臓がんで亡くなっているのが現状です。(増加していますが、高齢者も増えていますので、がんになる人自体が増えていることも大きな要因です。)
特に要注意なのが50~70歳。
この頃が発症しやすい年齢とされています。(母は56歳で発症しました)
死亡数が多い原因は、①早期発見が難しく、②再発・転移しやすい、そして③治療が難しいからです。
早期発見が難しい理由
困ったことに、初期の自覚症状は特にありません。
そのため、黄疸などの症状が出てくるころにはかなり進行した状態となっていて
手術ができない(ステージⅣa~Ⅳb)という場合も多いようです。
そして、通常の血液検査では発見できないこと(アミラーゼ値を測る必要があるが普通の病院は検査項目に入っていない)、エコー検査などでも色々な臓器が重なっているため膵臓自体が検査しづらいことも要因となっています。
再発・転移しやすい理由
膵臓がんは他のがんと比べ、悪性度が高いとされています。
癌ができる臓器によって、それぞれ特徴が異なり、膵臓がんは浸潤しやすい(他の臓器や器官へ染み出しやすい)性質を持ちます。
その上、胃や胆管、門脈、神経やリンパ節など周りに重要な臓器・器官が集まっているため、手術をしたとしてもがん細胞がすでに浸潤して散らばった後で、取りきれずに再発・転移する確率が高くなっています。
治療が難しい理由
そもそも見つかった時点ですでに進行した状態の場合が多いため、有効とされる手術ができないことが多いのが一つ。
手術ができたとしても、下痢・嘔吐などの症状で体力を消耗してしまい、その後の治療が難しいことがあるのも一つ。
そして、膵臓がんが使える抗がん剤は5つしかなく、また効果も確実なものではありません。これも一つです。
抗がん剤についての最新記事はこちら。
膵臓がんの発生する要因
現在、膵臓がんのリスクファクターとして考えられているのは、家族に膵臓がんの方がいること、遺伝性膵がん症候群(家族歴)、糖尿病、慢性膵炎、遺伝性膵炎などの合併、喫煙(危険率2~3倍)、コーヒーの飲みすぎ(1日4杯以上で男性で危険率3.2倍)、肥満といわれています。
家族歴について
2007年の日本膵臓学会の膵がん登録報告によると、膵臓がんの家族歴がある人は4.8%、家族内発がんは6.0%とのこと。自分の家族に膵臓がんの人がいると、一般の人よりも膵臓がんを発症しやすいということです。
また、膵臓がんだけでなく下記のような病態でも注意が必要です。
遺伝性膵炎、家族性大腸腺腫ポリポージス、などの遺伝性疾患では膵がん発生率が高く、遺伝性膵がん症候群とも呼ばれています。
肥満について
肥満が膵臓がんの要因のひとつである理由は、下記です。
その機序は、膵がんのリスクファクターである糖尿病の基礎病態である耐糖能障害や高インスリン血症と関連すること、肥満者では脂質過酸化による膵でのDNA損傷が増加することが挙げられています。
肥満はBMIが30以上を指し、男性では肥満のない人に比べると危険率が3.5倍、女性では1.6倍増加するとされています。
膵臓の場所と役割
膵臓は胃袋や肝臓の後ろに横たわる背中側にある15cmほどの消化器系の臓器です。
(図だとピンク色の臓器)
いろいろな臓器と血管、背骨に挟まれているので、検査も手術も難しい場所です。
症状や治療法は、膵頭部・膵体部・膵尾部と3つに分けられていますので、まずどの部位にがんがあるのか判断します。
膵臓がんが発生するのは、主膵管から発生するものが80~90%を占めています。
そもそも、膵臓はどのような役割を持っているのか。主な役割は2つ。
- アミラーゼやリパーゼといった食べ物の消化に必要とされる消化酵素を含んだ膵液を出す
- 血糖を調整するインスリン(血糖を下げる)やグルカゴン(血糖を上げる)などのホルモンを分泌する
※インスリンの働きが低下すると、糖尿病になります。
膵臓は食事をする際に特に重要な働きをしていることがわかります。
膵臓がんになると手術で膵臓または膵臓の一部、膵臓の周辺の臓器を切除することになりますが、術後に問題になるのは食べ物をうまく消化できないことによる下痢や、胃から腸へ食べ物がすぐに流れてしまうことによる食事中または食後のダンピングです。
膵臓がんの主な症状
ある程度病状が進行してから各部位共通で出る症状は、
背中の痛み、腰痛、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、便秘です。
膵頭部がんでは、胆管と主膵管が交わるあたりにがんが発生し、がんのかたまりが胆管を圧迫するため早い段階で黄疸が出ます。
※膵頭部がんは胆管が膵臓の中を通っていたり門脈(血管)や十二指腸が近くにあるため大掛かりな手術になります。母は膵頭部がんの切除に8時間かかりました。
一方膵体部・膵尾部では、胆管をふさぐことがないため、黄疸は肝臓に転移してから出ることとなり、膵頭部がんよりも発見しにくいとされています。
※この2部位は手術しやすいとされています。
膵臓がんは特に腰痛が強く出やすく、骨に転移した場合には痛みがひどくなることが多いですが、膵臓がんのなかでも膵尾部に発生した膵臓がんは、腰椎周辺の太い神経に浸潤すると腰痛が激しくなるようです。
膵臓がんの検査値、腫瘍マーカー
膵臓がんと判定される検査値、腫瘍マーカーは、
CA125、CA19-9、CEA、エラスターゼ1、SLX、STNです。
検査結果が出た際には、これらの数値に注意しましょう。
(ただ、膵臓がんの方でもこの数値が低く出る場合もありますし、逆もあります。目安として捉えるのがよいと思います。)
がんのステージ
大きく分類すると各臓器同じではありますが、
細かく見た場合、臓器ごとにがん細胞の広がり具合に対するステージ分類が異なります。
先生によってはT、N、Mという表現をする方もいます。知らないとまったく意味がわかりません。
ステージを分類するには、下記3項目から判断します。
●腫瘍の度合い(がんの大きさ・浸潤の程度)=T0(腫瘍の固まりはなし)、T1~T4
●リンパ節への転移=N0(リンパ節転移なし)、N1~N4
●遠隔(ほかの臓器への)転移=M0(転移なし)、M1(転移あり)
膵臓がんのステージ分類
見方
たとえば、他の臓器へ転移していたら(遠隔転移でM1)、ステージⅣbとなります。
腫瘍の大きさが2㎝以上でも、まだ膵臓の外側へ浸潤して(染み出て)いない(T2)、そしてリンパ節への転移もなければ(N0)、ステージⅡ・・・といった具合です。
治療法
選択肢は色々あります。
膵臓がんが分かったときのがんの進み具合によっても変わってきます。
基本的には「標準治療」と言われる下記の3つが最初にお医者さんから勧められます。
1)手術
2)薬物療法(化学療法)
3)放射線治療
その他にも、先進医療や臨床試験への参加、さまざまな代替療法があり
ご自分の体質に合うものを選ばれるのがよいと思います。
具体的な治療の流れを、下記記事ではわかりやすくチャート図にまとめています。
治療をする場合、いろいろと試したいけれども患者さんの「体力が持たない」というのが一番の難点です。
治すことと延命をすること、QOL(生活の質)を上げる・保つこと、それぞれのバランスを考えつつ
体を第一に考えて選んでほしいと思います。
転移、再発
がんの治療を難しくしているのが、転移・再発です。
特に膵臓がんは多くの臓器(胃や肝臓、脾臓、十二指腸)と接しており、上半身と下半身をつなぐ重要な血管(大動脈)がそばにあるため
早い段階からがん細胞が転移しやすくなっています。
そのため、膵臓がんに対しては、早い段階から手術で広範囲を切り取ることが有効とされています。
参考サイト
国立がん研究センター がん対策情報センター
がんについて詳しく書かれています。
もっと細かい内容を知りたい方はこちらを参照されることをおすすめします。
がん診察連携拠点病院、がん相談支援センター
がんを診察・治療している病院一覧がまとまっているサイトです。
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