がん末期に現れる「悪液質」実はよくわかっていなかった

がん末期に現れる「悪液質」実はよくわかっていなかった

悪液質とはなにか

がんの特徴のひとつである「悪液質」。当サイトでも膵臓がんについてでこのように説明しています。

「がん細胞は正常な細胞が必要とする栄養をどんどん奪います。それと同時にがん細胞から毒性物質が出ることにより、食欲低下や全身の倦怠感、体重減少がおこり、体が弱ります」と。

つまり悪液質という症状は、どんなに食べてカロリーを摂取しても体重が減少していくことなのです。

がん末期の患者さんが痩せ細ってしまうのは、このためです。

▼詳しい仕組みと対処法は別の記事でまとめています。

悪液質の仕組みと対処法

2016.07.02

悪液質の痩せ方

どのような痩せ方をするかというと、想像しやすいところでは、アフリカ等の痩せ細った子どもの手足と同じようになると考えてもらうと分かりやすいかと思います。お尻も骨でゴツゴツし、太ももや二の腕、頬の肉も無くなります。目の上も窪んできます。

悪液質の発生メカニズム

今わかっていることのひとつは、「タンパク質をうまく合成できないとともに、筋タンパク質の破壊が進むことによって発生する」ということです。

免疫細胞が腫瘍やがんなどを見つけると、特定の炎症シグナルを出します。それに反応した筋細胞が免疫細胞に異常な筋タンパク質を攻撃してもらえるように、筋タンパク質にいつもより多くの「E3ユビキチンリガーゼ」という攻撃目印の役割をする酵素をくっつけます。この酵素が原因ということが、2001年にげっ歯類から発見された遺伝子によって分かっています。(また、「アポトーシスの異常や、筋細胞中のミトコンドリアの異常も関係していると考えられている。」科学誌Natureより)

悪液質の定義と現状

実は「悪液質」という症状がきちんと定義されたのは2006年と最近で、科学誌Natureでは以下のように書かれています。

悪液質が初めて正式に定義されたのは2006年のことだ。その主な定義は、12カ月で体重が5%以上減少することと、筋力の低下である。

母の場合、手術では膵臓、胆管、十二指腸、胃の一部といった広い範囲を切除したので、元の体重よりだいぶ軽くなってはいますが、
記録をつけ始めた手術から20日後の体重は44kg、そこから6か月後には39.5kgになっていました。(6か月で約10%の減少

そもそも、悪液質はがんだけに見られる症状ではありません。

悪液質はほぼ全ての主要な慢性疾患の末期に見られる。心不全患者の16〜42%、慢性閉塞性肺疾患患者の30%、腎疾患患者の60%超が悪液質になる。それにもかかわらず、この症候群は見過ごされてきた。医師や研究者の関心は、元になる「基礎疾患」に集中していたからだ。

そう、様々な病気の末期には、みな悪液質によって痩せ細るのに、これに対する処置は何もなかったのです。

むしろ悪液質で痩せ細ることは医師にとって「仕方がない」ことであったのかもしれません。

ヴァージニア・コモンウェルス大学(米国リッチモンド)の緩和医療の医師で研究者でもあるEgidio Del Fabbroによれば、医療機関のがん専門医の間では悪液質の認知度はまだ低いという。悪液質の標準治療の指針は今のところまだない。

痩せ細ってしまう症状に対しては、現代医学ではまだ太刀打ちができないのが現状なのです。

現在の医学研究

10年前に比べると、先述の遺伝子の発見により大きく進歩しているとのこと。

盛んに製薬会社が的を絞って薬の開発を進めていたようですが、なかなかはっきりとした効果が出ず頓挫してしまったと記事には書いてあります。(悪液質だけの研究を取りやめた理由として「悪液質だけの医薬を対象とすることに保険会社が興味を示さなかったからだ」という記述もあり、医学界と保険業界のお金の問題も垣間見えます・・・)

現状の対策

現時点では有効な治療法は残念ながらないようです。

痩せるからと無理して食べ物を摂らせようとするのではなく、ごはんは楽しい、美味しいと思えるだけ食べるのが本人にとってよいと思われます。

薬での治療ができない現状はもどかしいかもしれませんが、心の面でサポートをしてあげるのが今のところ最善の対策です。

引用出典:Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 3「最期の病」(ログインが必要なサイトです)

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