【レビュー】「がんの最後は痛くない」(大岩孝司著)は一度読んでみてほしい本

がんの最後は痛くない 本レビュー

今回レビューするのは、「がんの最後は痛くない」という一般認識を覆すタイトルの本です。

がんの最後は痛くない(大岩孝司著)

がんの最後は痛くない(大岩孝司著)

この本は読んで為になった点(痛みの理由、困ったときの対処法など)が多く、もっと早くから読んでおけばよかったと思った一冊です。

内容はがん末期の患者さんに言及したものですが、がんと診断されてからすぐに読んで、「がんになるとどうなるものなのか」を認識しておくのは予備知識としておすすめです。ただ反面、がんはここに書かれただけではないというのも事実です。「がんになったらこうなる!」と決めてかかるのではなく、一事例として読まれるのがよいと思います。

著者について

大岩孝司氏。2001年から千葉市稲毛区に終末期のがん患者さん専門に訪問診療をする、在宅緩和ケア専門の診療所「さくさべ坂通り診療所」を開設している医師。

日本政府が2006年に「がん対策基本法」を制定し、緩和ケアの重要性が高まり各地に緩和ケア施設もできていますが、それよりもかなり早い時期から「痛みを取りQOLを上げること」の大切さに着目し、緩和ケアに取り組まれています。

著者の大岩医師は20年以上も前から肺がん患者さんの終末期に関わってきたそうで、鎮痛剤を使って痛みさえ取れば患者さんは幸せになれると当時は考えていたそうなのですが、実際は違ったと気づいたそう。在宅緩和ケアを通してがん患者さんの「本当の痛み」と「治療方法」を日々学んでいるそうです。

家が鎮痛剤になる

この本では、「在宅」緩和ケアの事例が載っているので、末期がん患者さんの家での緩和ケアの様子が描かれています。特に強調しているのは下記のことです。

「我が家は鎮痛剤です。住み慣れた家には不思議な力があります。」

出典:「がんの最後は痛くない」(大岩孝司著)第8章「キーワードは『自律』」

通常「緩和ケア」というと緩和ケア病棟に入院し、複数の看護師さんに看てもらうことになりますが、この診療所のやり方は違っています。

患者さんは家に居ながら何かあればいつでも電話で対応してもらい、医師・担当の1人の看護師が患者さんの家を訪問して日々の様子を見ながら痛みや症状に対処していく形を取っているため、「住み慣れた家」と「病院」での痛みの出方の違いが顕著なことを様々な事例で教えてくれています。

ただ、母の場合を取ってみると、手術をして退院後はずっと家に居ましたが、腰や背中の痛み・吐き気・だるさなどはずっとありました。このことからも、「家に居たら痛くない」ということではなく、「痛みが出ても自分でコントロールしやすい」ということではないかと思います。

家と病院で違うのは「自分のペースで過ごせること」(薬を飲みたいときに飲んで、寝たいときに寝る、食べたいときに食べる)だと思うので、「『病院にいるよりも』家のほうが痛みや吐き気は和らぐ」ことを本では言いたいと考えられます。ここは勘違いしやすいところです。

「患者さんが居心地のいい家に居るだけで、病院とは異なり痛みが治まりやすい。」これは確かに精神的な安らぎ・安心感がありますし、家だとなんだかんだで歩き回る必要が出てくるので、病院のベッドでじっとしているよりも痛みが取れやすそうなのは納得です。

がんの痛みの思い込み

一般的に「がんになると痛い」と考えられていますが、在宅緩和ケアでは鎮痛剤を使わなくても平気な人もいる、という事例を紹介しています。

これは捉え方がなかなか難しいところで、がんの種類や転移した場所によって痛みが強く麻薬でも効かないという場合も考えられますし、一概に「鎮痛剤はいらない!」と言えることではないと思います。(本でもあまり言及はしていませんでした)

ですが、鎮痛剤で適切に痛みをコントロールして不自由なく生活することは不可能ではありませんし、最後にがんの痛みで苦しむということをなくすのは可能でしょう。この痛みの対処の仕方を知るにはとても良い本だと思います。

そしてこの「痛みの固定観念」の実害と本当の痛みの正体についても本書では触れています。

「『がんは痛いものだ』という固定観念から、ケア側がやたらに痛みに注目し、ある意味で不用意に『痛み』という言葉を使うことで、かえって患者さんが痛みを強く意識し、痛みを増大させている現実もあります。」

出典:同上 第4章「痛くなるメカニズム」

患者さんもケアする側も「痛くなるものだ」と意識しすぎるのは逆効果で、気にしているとちょっと痛むだけで敏感に反応してしまうのはがんだけでなく日常的にもよくあることですよね。(低気圧で頭痛が起きるものだと一般的に言われていると、天気が悪くなるとそういえば頭痛がする気がする・・・のような感じ)

何事も考えすぎはよくありませんし、事実をきちんと理解する必要があります。がんでは特に情報の把握と整理は大切です。

「しかし、痛みは単純に身体的な側面からだけ生じているのではありません。」

「がん患者さんが抱える身体的な痛みには、がんの進展によって引き起こされるもの以外にも、手術で傷ついたことで引き起こされたものや、加齢によって起こるものなど、がんとは無関係の痛みもあります。」

出典:同上 第4章「痛くなるメカニズム」

これは当サイトの記事「がん性疼痛は我慢しなくていい!医療者への上手な痛みの伝え方とは?」でも紹介しているように、本当の痛みの正体です。

しかし残念ながら、病院では痛みを伝えると、なんでも鎮痛剤で終わらせようとしますが、それは間違いです。体操やマッサージで治るもの、日々の習慣を見直すことで治るもの、そして後に紹介する気持ちの面を整えることで治るものもあります。(いわゆる「病は気から」ですね)この点をわかりやすく解説している本書はとても参考になると思います。

不安が痛みになる

痛みの原因は前述のように様々ありますが、「気持ちが痛みに繋がる」というのは科学的ではありませんし周りは理解しづらい点かもしれませんが、実際に経験のある方は多いと思います。(学校に行きたくなくて頭が痛くなる、テスト中プレッシャーでお腹が痛くなる、といった具合で)

しかしがんでは、そこを見落としがちです。その点についても、本書ではわかりやすく書いてくれています。

「言うまでもなく、ほかの疾患とがんとが決定的に違うのは、がんには常に『死』というものがつきまとうということです。~中略~がんの痛みの裏に『死』への恐れがあるというのは、ことさら繰り返すまでもないでしょう。」

「転移したのではないかという不安が先に立ち、その痛みは加齢やほかの疾患が原因かもしれない、などとは冷静に受け止められなくなってしまうのです。」

「大切なのは、不安を一人歩きさせないことです。~中略~自分の身に起こっていることをきちんと理解し、確かなことと確かでないことを整理して仕分け、心配していることや分からないことを医師・看護師だけでなく、家族にも率直に話すことです。」

出典:同上 第7章「がんの痛みだけなぜ特別視されるのか」

不安があるのは当然です。ただ、無意味に不安を募らせるのではなく、解決できる不安もたくさんあります。無理をせず、我慢をせず、こんな時こそなんでも口に出して言ってみるのはとても大切なことだと思います。

使えるものは使う。これは鉄則です。

家族でも医者でもケアマネでも、便利なものでもサービスでも患者会などでもいいです。辛くて当たり前なのですから、気持ちも楽になって症状も改善したらラッキーではないですか?そういった気づきをくれる本です。

自律が必要

「がん患者さんが幸せに生きるためにはなにが必要でしょうか?」

人によって答えはバラバラだと思います。しかし出てきた答えの根底にあるものは、本書でも言及している患者さんの「自律」ではないかと私も思います。

「最近、『自己決定』や『自立支援』が、医療や福祉の現場で大切なことと考えられるようになってきました。~中略~しかし、『自立支援』については、少し考えが違います。『自立』は『自分で立つ』ことであるのに対し、『自律』は『自分でコントロールする』こと。だから、がんの緩和ケアにおいて私たちが支援すべきは『自立』ではなく『自律』ではないかと考えています。」

出典:同上 第8章「キーワードは『自律』」

がん患者さんは末期になるとなかなか自分の体を思うように動かせなくなります。つまり「自立」が困難になります。

もちろん自立を支援する(自由に動けるようにする)ことは必要なことで、いらないわけではありませんし、できるならば最後まで自分でなんでも出来ていたいはずです。

ただ現実はなかなか難しく、歩けなくなったり寝たきりで動けなくなってしまうのは仕方のないことです。そんな自立ができないことを実感しダメだと思うのではなく、必要なのは周りに助けてもらってもいいから(自立はできていなくてもいいから)「自分で好きなことを決めて、好きなことをできるようにする」ことです。

自分で決める=自律です。これは心が解放され、満たされます。

再度問います。「がん患者さんが幸せに生きるためにはなにが必要でしょうか?」

大切なのは、体よりも最終的には心ではないでしょうか。

まとめ

この本では、全員が全員こうなるわけじゃないでしょ、というツッコミはありますが、様々な気づきと具体的な対処法が載っていて、がんになった患者さん本人にどう接したらいいのかがよくわかるので、特にご家族には前もって読んでもらいたいなと思う本です。

私はこの本を読んで、母にはこう接したらよかったのか、こんなことを聞いてあげればよかったのか、と何度も後悔しました。私は母から見れば自分の子どもです。やはり親である分、我慢していた部分もあったのでしょう。「○○してほしい」ということはあまり言われなかったなと思い、もっと気を回してあげられたらよかったと思います。

↓から買えますが、一回読めばいい本なので中古や図書館で借りるのでも全然いいと思います。(中古なら92円からあるみたいですし。安いですね。笑)

このページをシェアする

【膵臓がんでも幸せに楽しく生きる】からお知らせを受け取るには?

お母さんプロジェクトチーム
いつも【膵臓がんでも幸せに楽しく生きる】をご覧いただきありがとうございます。

FacebookやTwitterではがんの最新情報やおすすめの癒し情報など随時配信中です。ブログの更新もお知らせしているので、ぜひ登録して活用してくださいね♪

▼Twitterをフォローする

▼Facebook いいね!

お母さんプロジェクトチーム
↓のランキングボタンを押すと、この記事を他の患者さんにも読んでもらえる可能性が高くなります。よろしければご協力の程お願いいたします。

 

⇒すい臓がん ブログランキングを見る ⇒FC2 ブログランキングを見る