悪液質の仕組みと対処法

悪液質の仕組み

「悪液質」という言葉は医者からも説明はありませんが、がんについて調べたときによく目にする単語だと思います。

悪液質自体はがんに限らず、他の疾患でも見られる症状であり、がんの場合でもがん種により悪液質が生じにくいものもあれば進行の早さもバラバラです。ですが特に、膵臓がんでは悪液質が発症しやすいとされています。

当サイトでも詳しい仕組みについては触れていませんでしたので、
どのような症状が出て、何が原因なのか、近年ようやく解明されてきた仕組みをあらためて解説します。

悪液質の症状

悪液質の仕組み

悪液質の状態

表面に現れる症状は、

  • 体重減少(脂肪と骨格筋の減少)
  • むくみ(足や腹水など)

です。がんになると、食べても食べても体重が減る、これは悪液質が原因のひとつです。

体重が減る原因
そもそもがんによって体重が減少する理由は2つあります。

  1. 「がん関連体重減少」(CAWL)
    ⇒ 消化管の狭窄・閉塞、治療による食欲不振、
    告知による精神ストレスを背景とした摂食不良が原因
  2. 「がん誘発性体重減少」(CIWL)
    ⇒ がん細胞によって能動的に分泌される
    炎症性サイトカインやホルモンによる代謝異常が原因

日経メディカル 悪液質への介入―浮上した炎症制御の重要性より引用

①は物理的な原因のため、タンパク質やエネルギー補給で改善が可能ですが、
②は悪液質なのでがんのコントロール・治癒が不可欠です。
今回は①は省略し、②の仕組みを見てみます。

体の内面で進む症状は、

  • 免疫力の低下(疲れやすい、倦怠感)
  • 薬物代謝を下げる(抗がん剤など薬が効きにくくなり、副作用が強くなる)

です。残念ながら、通常の栄養管理では悪液質の改善は不可能とされており、癌自体の治療によって癌が縮小・寛解することにより自然と消滅するとされています。

ですが、症状を緩和する食材や、エビデンス(科学的根拠)は確立されていませんが改善できる見込みのある治療法も見つかりつつあるのが現在の状況です。

 

では、それぞれの仕組みをお話していきます。

悪液質を誘発する仕組み

まず悪液質が引き起こされる仕組みを見てみましょう。

免疫細胞から生まれるサイトカインが原因

体には、異常な細胞やウィルスを撃退するために「免疫機能」が備わっています。

免疫細胞である「マクロファージ」などが攻撃をするときに、「サイトカイン」という物質が、細胞から細胞への情報の伝達を助け、さらに攻撃を促進させます。

補足
サイトカインは免疫細胞(マクロファージ、T細胞、B細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞など)が作り出すタンパク質分子です。このサイトカインが免疫細胞のレセプター(受容体)にくっつくと、活性化させたり抑制したり、増殖させたりと、種類によって様々な動きをします。
サイトカインの種類がわかりやすい参考サイト:サイトカイン | 愛-madoka.com

がん細胞から生まれるサイトカインはひたすら炎症を繰り返す

一見いいやつなのですが、がん細胞とがんに反応した細胞・組織からサイトカインが過剰に産生・分泌されるとがん細胞の周辺で炎症を引き起こしてしまいます。

悪液質の仕組み 炎症性サイトカインが炎症を引き起こす

炎症性サイトカインが炎症を引き起こす

「炎症」とは免疫が感染を阻止しようと攻撃したり、除去された老廃物・組織の修復に必要な材料を運搬するために新しく血管を作ったりすることです。この働きにより、発赤・発熱・疼痛・腫れ・動かせないといった炎症の症状が出るわけで、通常炎症が起こるのは体を守ろうとする機能ですので悪いことではありませんし、普通なら原因が無くなれば炎症も自然とおさまります。

自然とおさまるのは「炎症を起こすサイトカイン(炎症性サイトカイン)」と「炎症を抑えるサイトカイン(抗炎症性サイトカイン)」が均等に産生されるからです。

ですが、「がん細胞から生まれる」サイトカインは炎症を起こすものしか産生しないのです。そう、誰も炎症を抑えてくれないのでNOブレーキです。「炎症性サイトカイン」が過剰に生み出されることが、がん悪液質を誘発する要因となっています。

炎症性サイトカインの種類
炎症性サイトカインには「インターロイキン1β」や「インターロイキン6」「インターロイキン8」「TN-α」などがあります。

悪液質によって体重が減る仕組み

炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)が悪液質・体重減少に大きく作用しているようだとわかってきています。

IL-6は筋肉を分解する

がん細胞によって過剰に作られたIL-6は、

体内のタンパク質を分解する酵素のスイッチを常に「オン」の状態にします。そのため体内のタンパク質はアミノ酸に分解され、タンパク質から構成されている全身の筋肉はどんどん萎縮していきます。

悪液質の仕組み 炎症性サイトカインが筋肉を分解する

炎症性サイトカインが筋肉を分解する

つまりタンパク質分解酵素をたくさん放出し、筋肉が分解されます。
分解されたアミノ酸は、がん細胞が自らのエネルギー・栄養源として取り込んでしまいます。

そしてまたがん細胞が力を増してIL-6を作り出し、筋肉を分解し、タンパク質を搾取するという悪循環が起きているわけです。

がんの炎症が活発=筋肉が分解されて食べられている ということになります。

 

IL-6はブドウ糖を集めるために血管を新しく作る

「がん細胞は毛細血管を新生して栄養を補給する」これはどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?

この仕組みに寄与しているのが、実はIL-6。こんなことがわかっています。

炎症を促進するIL6には、グルコース(ブドウ糖)を中心とするエネルギー源が局所で枯渇すると、その補給のために血管新生因子をその場で産生させる作用もあるのです。つまり、がん細胞の周囲で炎症が進行すると、同時に新たな血管が次々につくられ続けます。がん細胞はその血管を通して、生体が必要とする栄養を奪い、自らを増殖させ続けていくのです。

引用元:EPAががんによる炎症を抑え、QOLを改善「あきらめないがん治療」を支える新たな栄養療法 | がんサポート

悪液質の仕組み 炎症性サイトカインが血管を新生する

炎症性サイトカインが血管を新生する

がん細胞は正常な細胞よりもブドウ糖を多く取り込むため、IL-6が血管を新生してブドウ糖を集める道を作るのはがん細胞にとってプラスに働いてしまうのです。

 

IL-6は脂肪を燃焼させることに関係している

この他にも、最新の研究では「褐色脂肪組織化」がIL-6によって過剰に促進され、体を動かさなくても脂肪が勝手に燃焼されてしまうこともわかっています。

▼詳しくはこちらの記事を参照。
がん悪液質は治せるかもしれない!?(twitterまとめ 6月9日~13日)

 

IL-6は食欲不振やだるさ、痛みも引き起こす

さらに、炎症性サイトカインは脳神経系にも影響を与えており、食欲不振倦怠感不眠抑うつ難治性がん疼痛も引き起こすことがわかっており、直接的にも間接的にも体重減少に関わっています。

 

体自身もがん細胞にエネルギーを奪われているため、エネルギー不足を補うために体脂肪や筋肉を分解して利用してしまいます。

体とがん細胞がタンパク質の奪い合いをすることにより、どんどん体重が減ってしまうということです。

むくみ、腹水の仕組み

足や顔のむくみ、腹水や胸水もがん細胞によって作られた炎症性サイトカインIL-6が関係しています。

IL-6は、血液中のタンパク質の主成分であるアルブミンの生成を抑制します。
アルブミンは血液中の水分を保つ役割をもつため、不足すると血管内から水分が漏れ出し、足などにむくみが発現し胸水や腹水は増加します。

つまり、がんの周辺で炎症が起こる(免疫が活性化しがん細胞由来の炎症性サイトカインが増える)ことで、IL-6が増え、アルブミンが減り血管内に水分が保持できなくなり、腹水や胸水が発生してしまうということです。

IL-6と生存率の関係

この炎症性サイトカインIL-6(インターロイキン6)の血中量と生存率には相関関係があるとわかっています。

悪液質の仕組み IL-6と生存率の関係

IL-6と生存率の関係

がん研有明病院の緩和ケア病棟に入院し亡くなった患者の最終入院時における血中IL-6値と、生存率(生存期間)の関係を示した。IL-6値が高い程、生存期間が短いことが分かる。この結果から高IL-6血症(がん悪液質)は心身の症状だけでなく生存率とも密接な関係があることが示唆される。

引用元:がん研究最重点課題の一つ、「がん悪液質」を克服できれば「天寿がん」も夢ではなくなる

つまり、炎症をなるべく抑え、IL-6の発生を抑えることが悪液質を防ぎ生存期間を延ばすということです。

悪液質の段階

がんの悪液質には進行度合いによって、3つの段階があります。

前悪液質 >> 悪液質 >> 抵抗性(進行性または不可逆的)悪液質

悪液質の仕組み 進行度合い

悪液質の進行度合い

悪液質になる前の段階(前悪液質)で栄養サポートをしっかり行うことで、栄養不良の進展を遅くしたり、抗がん剤治療への耐用性を向上できると考えられています。

ステージがⅠでも悪液質は発症しますし、ステージがⅣでも悪液質にはならないこともあります。それはCRPとアルブミンが関係しているようです。

悪液質と炎症反応マーカーCRPの関係

血液検査をしたときに炎症反応の値が「CRP」というマーカーで測定されます。これは炎症が起こったときに産生される「CRP」というタンパク質の量です。

血中濃度が中程度以上の炎症の目安とされる2.0mg/デシリットルを超えると症状が悪化するそうです。

CRPと、栄養状態がわかる血中のアルブミンというタンパク質の量を基準値と比較することで、悪液質のパターンを割り出し現在の体の状況が判断できると考えられています。下記のC、D群に分類される場合、がんの進行が早く、予後が悪いタイプだとわかっています。(三重大学大学院医学系研究科 三木准教授による)

悪液質の仕組み CRPとアルブミンによる悪液質判定

CRPとアルブミンによる悪液質4パターン判定 (出典:Glasgow 大学McMillan教授の考案したGlasgow Prognostic Scoreを改変

A群【正常】
CRP値 正常(0.5mg/デシリットル未満)
アルブミン値 正常(3.5g/デシリットル以上)

B群【低栄養】
炎症は進んでいないが、栄養状態がよくない状態。
CRP値 正常
アルブミン値 低い(3.5g/デシリットル未満)

C群【がん悪液質予備軍】
炎症が進んでいるが、まだ栄養状態はよい。悪液質になる前に手を打つ必要がある段階。
CRP値 高い(0.5mg/デシリットル以上)
アルブミン値 正常

D群【がん悪液質】
急激に炎症が進み、体の栄養状態も悪い状態。症状を緩和する必要がある。
CRP値 高い(0.5mg/デシリットル以上)
アルブミン値 低い(3.5g/デシリットル未満)

A、B群とC、D群では生存期間もまったく違っており、ステージ4のがん患者A、B群の平均生存期間は36カ月なのに対してC、D群はわずか8カ月にとどまっている。三木さんは同じ傾向は大腸がんだけでなく、乳がん、肺がん、胃がん、食道がん、膵がんなどほとんどの固形がんに共通して見られるという。

引用元:EPAががんによる炎症を抑え、QOLを改善「あきらめないがん治療」を支える新たな栄養療法 | がんサポート

また、ステージによってどの群が多いのか割合を表した図がこちら。左からステージⅠ~。

悪液質の仕組み ステージごとの悪液質パターンの割合

ステージごとの悪液質パターンの割合

ステージがⅠの場合でもC,D群は10%ほど存在しています。下記のような指摘もあります。

Stage I、IIでは、術後補助化学療法は実施されないケースが多い。CRP値が高いということは画像診断では検出できない残存がんの可能性もある。

引用元:悪液質への介入―浮上した炎症制御の重要性 | 日経メディカル

自分の状態を正確に把握することは大切なことです。CRPとアルブミンの値をひとつの目安として、治療の指針を考えるのがよいでしょう。

対処法

悪液質を緩和するには炎症を抑える必要があります。食材に含まれる成分や薬で現在使われているものを紹介します。

食材での改善方法

炎症性サイトカインの働きを抑える役割をするのが、イワシなどの青魚に含まれる「EPA(エイコサペンタエン酸)」、「DHA(ドコサヘキサエン酸)」、「リゾルビン(EPAとDHAの結合産物)」です。

体重減少や体力低下の予防に必要な1日の摂取量はなんとイワシ3~4匹分(2g)とのこと。

がんでない人でもそんなに食べられませんので、PROSURE(プロシュア)という栄養食品が出ています。220mlのパックひとつにEPAが1.0g、DHAが0.4g配合されているので、1日1~2本飲んでくださいと書いてあります。キャラメル味もあったみたいですが、今はバナナ味だけみたいです。(プロシュアのサイトはこちら

補足
以前の紙パックタイプのときに買って飲んでみましたが、ドロリとしていて&妙に甘いのでたくさん飲むのは結構しんどかったです。(蓋つきに変更されたので途中で冷蔵庫に入れられるのはいい。)なので、牛乳入れたり、凍らせたり、ゼリーにしたりしてねとメーカーは書いてますが、色々混ぜてみるのはよさそうです。(組み合わせで吸収しづらくなるものもあるかもなので注意)

こちらの記事(悪液質への介入―浮上した炎症制御の重要性 | 日経メディカル)にはプロシュアを摂取してもらって症状が回復した事例も載っていますので参考に。

 

薬での改善方法

研究段階ですが、薬で炎症を抑える方法も考えられています。

  1. 炎症性サイトカインであるIL-6の受容体への結合を阻害する、または受容体へのモノクローナル抗体(免疫のB細胞が作る決まった目印に対する抗体を大量に作って医薬品として使う)といった抗体医薬
  2. 炎症性サイトカインと体の細胞にあるサイトカイン受容体が結合したあとに細胞内シグナル伝達をブロックする低分子医薬
  3. (基礎実験段階ですが)炎症性サイトカインTN-αの産生を抑えるモルヒネ

 

①については、現在関節リウマチ(炎症の疾患)で使われているトシリズマブが抗がん剤と併用できないかと研究されています。

 

温熱療法は炎症を悪化させないの?

炎症は一般的には熱を与えると悪化するとされていますが、がんの場合は炎症を抑えなければならないのに、温熱療法は炎症を助長させるのではないかと疑問が出てきます。

実は筆者も相当調べましたが、不思議なことにそれに言及している記述は見つけられませんでした。

がんの炎症は、捻挫したときのような「急性炎症」ではなく、1週間以上続く「慢性炎症」に分類されます。

急性炎症の場合は温めることは炎症を悪化させるのでよくない場合が多いのですが、どうやらがんの炎症は関係がないようです。(分かっていないというのが正しいのかもしれませんが)

温熱療法については、全身を温めるもの局所(深部)を温めるものがあります。全身温熱であれば体の免疫を上げて血流をよくし、がんの炎症に影響するとしても他の部分(食欲や体温など)でそれを上回る良い効果が出ているようです。そして局所温熱でも、42.5℃以上にがん細胞を熱して死滅・抑制し数を減らすことは、炎症が進むとしてもプラスの効果のほうが大きいのでしょう。

補足
癌には禁忌とする温熱療法もあるようです。(こちらのサイト疼痛および炎症 | メルクマニュアル18版 では、超音波・短波ジアテルミー・マイクロ波ジアテルミーが癌には禁忌としていますが、効果があるとして治療しているクリニックもありますので、現時点で判断はできかねますね。)

参考サイト

日本緩和医療学会 | 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)

がん研究最重点課題の一つ、「がん悪液質」を克服できれば「天寿がん」も夢ではなくなる | 「がん治療」新時代

EPAががんによる炎症を抑え、QOLを改善「あきらめないがん治療」を支える新たな栄養療法 | がんサポート

悪液質への介入―浮上した炎症制御の重要性 | 日経メディカル

悪液質 | メルクマニュアル18版

疼痛および炎症 | メルクマニュアル18版

温熱療法 | がん情報サービス

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2 件のコメント

  • 主人はすい臓がんで、先週から容態が悪化。抗ガン剤もストップ。アブジェムにかえたとたんの事でした。某大学病院では緩和ケアの話だけで対処してくれず、まさしく悪液質のプログの状態です。気力、体力を奪い、訳のわからない事を
    言ったり。、寝てばかりの状況です。家庭で出来る事をがんばってやって行きます。本当にお母さんプロジェクトのサイトがいろんな意味で救いになります。

    • もも様
      コメントありがとうございます。ご主人も、ももさんも大変な時ですが、お二人ともに体調を崩したり落ち込んでしまわないよう、お気をつけてくださいね。
      ご主人の話もよく聞いてみると、やってほしいことややりたいことがわかるかもしれません。私の場合はもっと「これをやろうか?」と声を掛ければよかったと今になって後悔していますので、ももさんはそうならないようにと願っています。
      がんばりすぎず、がんばってください。応援しています。

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