膵臓がんには効くのか
1ページ目でご紹介した日本の医療機関では、膵臓がんはまだ臨床試験の範囲で治療が行われています。
膵臓がんの治療実績が各医療機関サイトに載っています。それぞれ抜粋しました。
- 千葉県 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所病院
【術前照射】29例 ⇒ 局所再発0件、5年生存率51%
【切除不能局所進行膵がん】64例 ⇒ 2年生存率33%(うち比較的高い線量(45.6GyE以上)を照射した36例では2年生存率64%)
※2011年7月時点でのデータ⇒ 治療実績(膵がん) - 兵庫県 兵庫県立粒子線医療センター
【3年局所制御率】58%
※データ詳細不明⇒ 当センターでの治療実績・治療例 - 群馬県 国立大学法人群馬大学医学部附属病院
【治療人数】117人
※2010~2017年のデータ 実績不明⇒ 群馬大学での重粒子線治療患者数の内訳 - 佐賀県 九州国際重粒子線がん治療センター
【治療人数】103人
※2017年2月末日時点のデータ 実績不明⇒ サガハイマット通信vol.16 - 神奈川県 神奈川県立がんセンター
こちらは膵臓がんが治療対象疾患となっていないようです。⇒ 治療対象疾患について
上記の通り、重粒子線治療でも、癌を完全に抑えられるというわけではありません。
また、重粒子線治療を受けることで、有害反応(皮膚や腹壁・消化管・肝機能・膵臓・胆道)や有害事象(血液毒性、食欲不振、胃潰瘍・出血、腫瘍内感染)といったリスクもあります。
ですが、手術ができない状態でも、膵臓がんの大きさや浸潤具合などによって重粒子線治療の適用範囲であるならば十分選択肢として考えてよいと思います。
実際どの程度の効果があるのか、具体的な結果が医用原子力技術研究振興財団で掲載されました。(情報を下さった林様、ありがとうございます。)
医用原子力だよりの第17号、p.19~膵臓がんの重粒子線治療の体験談が載っています。
記事の内容を簡単にまとめると・・・
【治療時の膵臓癌の状態】:膵体部の腺癌(大きめの腫瘍)、ステージⅣa、門脈と腹腔動脈に浸潤あり、手術不可、癌が膵臓内にとどまり転移がない
【重粒子線治療の内容】:計3セット(3週間ほどの間に12回の照射×3)
【それぞれの結果⇒1回目】:劇的に腫瘍マーカー改善(【CEA】100 → 4.3、【CA19-9】6,000 → 243)重粒子線治療後にジェムザール(抗がん剤)を行うが、その後再発
【それぞれの結果⇒2回目】:癌の大きさが小さくなる(【CEA】3.6、【CA19-9】18の正常値に。)TS-1(抗がん剤)を行っていたが、角膜障害のため中止、その後再発
【それぞれの結果⇒3回目】:癌の大きさがさらに小さくなる(腫瘍マーカーは正常値)
【現在の状態】:腫瘍マーカーは正常値のまま。腫瘍の拡大、転移はない。TS-1を量を少なくして継続中。
完全になくなっているわけではないとのことですが、確実に効果は出ているようです。
最後に
重粒子線治療は、DNAに傷をつけて抗がん剤との相乗効果を上げたり、自らの免疫力で効果が上がるものです。
まずはやっぱり、よく食べてよく寝て、元気でいることがとても大切ですね。
放射線治療は深い位置にある膵臓がんには難しいですが、重粒子線なら期待が持てます。
手術にも良し悪しがありますし、もし手術ができない状態でも条件が合えば、選択肢のひとつとして考えたいですね。
気になったらすぐに、主治医に、またはセカンドオピニオンで相談してみましょう。
参考サイト・論文
論文
粒子線治療(陽子線・炭素イオン線)|出水祐介(耳鼻 60(補1):S38~S43,2014)
がん放射線治療の基礎知識|早川和重(北里大学医学部放射線科学(放射線腫瘍学))
官庁、医療機関
重粒子線治療について
4 新型イオン源による加速器の小型化への取組み|東芝の加速器技術と重粒子線治療用加速器の小型・高性能化へ向けた取り組み
切らずに治す粒子線治療|公益財団法人 医用原子力技術振興財団
活性酸素について
DNAの損傷と修復|健康長寿 順天堂大学大学院客員教授・東邦大学名誉教授 後藤佐多良
お母さんプロジェクト様
重粒子線治療情報を体系的に整理頂き、本当に有り難う御座いました。これだけの情報を収集されるのは大変だったかと思います。すべての膵がんの方に重粒子線が効果があるとは思いませんが、私の最初の主治医が言っていた言葉『林さんの癌はこれだけ大きいのに他の臓器への転移が見られない。もしかすると転移しずらい癌かもしれないので希望を捨てないでください』を思い出します。結果的には6年目を迎えても再発転移がなくオリゴ転移型のすい臓がんだったのかと思っています。すい臓がんの内約3割はオリゴ転移型のすい臓がんだと言うアメリカでの統計結果もありますので、その方たちには希望を与えることができるのではないかと思います。お忙しい中大変だとは思いますが、今後も情報の発信を期待しております。
林様
コメントを頂き、ありがとうございます。
確かに、転移がしづらいというオリゴ転移型のすい臓がんの方にとっては、林さんの体験と結果はとても希望の持てるものだと思います。
(本当に、情報を頂きありがとうございました!)
そのような方に「気づいてもらう」きっかけとなれば嬉しいですね。
※パンキャンの2014年の記事ですと、転移型について、日本でもアメリカの統計と類似した結果が出たと書かれていますね。⇒国内ニュース:膵臓がんのオリゴ転移型と広範囲転移型
時間の惜しい膵臓がん患者さんにとっては、「散らばった情報がまとまっていること」・「難しい内容が分かりやすく解説されていること」は大切なことだと感じています。これからもご期待に沿えるようがんばります!
素晴らしい記事掲載ありがとうございます。
私の妻も4月に膵臓がんと判明し抗ガン剤治療をしています。
セカンドオピニオンで重粒子線を受診しましたが十二指腸と腫瘍が隣接している為にリスクがあり抗ガン剤を2〜3クールして十二指腸と腫瘍が離れれば重粒子線が対応可能と診断を受けてます。それまで何とか抗ガン剤に耐えて転移がないことを祈るばかりです。
何か良い情報やアドバイスがあれば宜しくお願いします。
ダイナ様
コメントを頂きましてありがとうございます。
少しでもお役に立てていたら嬉しいです。
仰る通り、消化管と接していると重粒子線治療はできないようですね。
体験談にある林さんも最初は胃と癌が接していたようです。
(PDF内、体験談の次のページから数ページ、担当医による解説があります)
すでにご存知かもしれませんが、抗がん剤など日本の膵臓癌治療については、日本膵臓学会発行の診療ガイドライン(http://www.suizou.org/pdf/pancreatic_cancer_cpg-2013.pdf /2013が最新)というものがありますので、CQ 5-2(PDF内p.118~)などが参考になると思います。
重粒子線治療については、今のところ各重粒子線施設のサイトが一番情報が充実しています。
(特に千葉県のものが細かく載っています。⇒http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/conform/conform_05f.shtml
参考資料のPDF後半も参考になると思います。⇒http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/pdf/proceedings_j.pdf)
まずはストレスを溜めず、適度に体や患部を温めて免疫力が落ちないよう気を付けてくださいね。
(抗がん剤で免疫力が落ちがちですが、抗がん剤や重粒子線治療の効果を引き出すのも結局は体の治癒力である免疫力ですので・・・)
私たちも、抗がん剤が効くことを祈っております。