ダンピングとは?
膵頭部にがんがある場合、手術で胃の幽門側(胃の出口側)を切除することがあります。
▼手術について詳しく知りたい方は以下の記事をお読みください。
胃を切除する手術後、「ダンピング症候群」が起きることがあります。
まずは、「ダンピング」について見ていきたいと思います。
本来食べたものは、胃で胃液と混ざりドロドロのかゆ状になり、それから少しずつ十二指腸に送られます。
しかし胃や幽門(胃の出口)が切除されてしまうと、胃液の分泌量が少なくなったり、食べたものを貯めておく機能がなくなり、食べたものがドロドロのかゆ状になる前に腸に送られてしまいます。
つまり胃がある状態では、軟らかくなった食べものが少しずつ腸に移動していたのに、胃を切除すると、軟らかくなる前に食べたものが一度に急に腸へ流れ込みます。
この食べたものが一気に腸へ流れ込むことを「ダンピング」と言います。
ちなみに「ダンピング」とは、もともとダンプカーが一気に積み荷を降ろすことを表す言葉です。
ダンピング症候群とは?
「ダンピング症候群」とは、ダンピング(食べたものが急速に腸へ流れ込むこと)によって起きる不快な症状のことです。
ダンピング症候群には、食後30分以内に起こる「早期ダンピング症候群」と、食後2~3時間後に起こる「後期(晩期)ダンピング症候群」があります。
早期ダンピング症候群
早期ダンピング症候群は、食後5~30分くらいで、冷や汗・動悸・めまい・しびれ・だるさなどの全身症状と、腹痛・下痢・吐き気・嘔吐・腹部膨満などの消化器症状が出現します。
早期ダンピング症候群が起こる原因
浸透圧の高い食べ物が急速に小腸へ流れ込むことで、小腸に水分が移動していきます。
浸透圧: 濃度の異なる水溶液を半透膜(細胞膜などの小さい分子は通過させるが、大きな分子は通過させない膜)で隔てておくと、その膜を通して水分だけが濃度の低いほうから高い方へ移動することを「浸透」と言い、その圧力を「浸透圧」といいます。
すると、体を循環している血液の液体成分が、急激に減少します。
水分量が少なることから血管内の圧が低くなり、血圧低下に伴うめまいや吐き気などの症状が出現します。
また腸に水分が集まることから、薄い腸液の大量分泌が起きて腹痛や下痢を引き起こします。
同様に一気に食べ物が入ってくると、腸が刺激され、腸のぜん動運動が激しくなり、腹痛や下痢など症状が出ると考えられます。
ぜん動運動:消化管などの臓器の収縮運動のこと。内容物を移動させる役割をしています。
更に糖分を急速に吸収代謝する過程で、脳の血流減少を招き、冷や汗などの症状が出ます。
他にも、腸から消化管ホルモンが過剰に放出され、これにより血液が腸に集まり一時的に全身に循環している血液が不足します。
対処法
早期ダンピング症候群の症状が現れたら、横になるなどして楽な姿勢を取り、安静にしてしばらく休みましょう。
数分から数十分で改善します。
しかし顕著な場合や食事の工夫で改善しない場合には、薬を投与することもありますので、主治医に相談してみてください。
予防策
第一に、よく噛みゆっくり食事をしましょう!
よく噛めば食べ物が唾液と混ざり、胃の代わりに、口で十分に軟らかくして腸の負担を軽くすることができます。
また時間をかけて食事をすることで、食べ物が腸に一度に大量に送られるのを防ぎます。
次に、食事中の水分摂取は極力控えましょう。
先ほど述べましたが、腸に一気に食べたものが流入すると、腸に水分が集まります。
それによって早期ダンピング症候群の症状が出ます。
なので、食べ物が過剰な水分とともに腸に急速に入らないようにすることが必要です。
そのためには、食事中の水分摂取を控え、出来るだけ早く水分の多いお粥をやめて、水分の少ない米飯をよく噛んで食べるようにしましょう。
最後に、炭水化物の摂取量を抑えつつ、高たんぱくな食事をしましょう。
炭水化物の摂取量を減らして高たんぱくの食事をすると、十分なカロリーは摂取しつつも糖を急速に吸収することで起きるダンピング症候群の予防になります。
炭水化物の摂取量を減らすことは、後期(晩期)ダンピング症候群の予防にもなります。
炭水化物:炭水化物は、糖質と食物繊維から成っています。
後期(晩期)ダンピング症候群
後期(晩期)ダンピング症候群は、食後2~3時間くらいで、脱力感・倦怠感・頭痛・眠気などの症状が出現します。
ひどい場合には、倒れることもあり、大変危険です。
後期(晩期)ダンピング症候群が起こる原因
後期(晩期)ダンピング症状は、 血液中の糖分が低くなるために起こります。
まず食べた炭水化物が腸に流れ込みます。
すると炭水化物に含まれる糖質が、急激に血液の中に吸収されて、一時的に血液中の糖分(血糖値)が上がります。
これを下げようとして、インシュリン(血液中の糖分を下げるホルモン)が大量に分泌されます。
しかし、糖の吸収が終わってもインシュリンは分泌され続けるので、グルカゴン(血液中の糖分を上げるホルモン)の分泌が間に合わず、逆に低血糖状態に陥ります。
つまり、食べたものにより血糖値が上がる→インシュリンにより血糖値下がる→糖の吸収が終わってもインシュリンは分泌され続けるので低血糖状態へ。
このように後期(晩期)ダンピング症候群は、低血糖が原因なので、「後発性低血糖症候群」とも呼ばれています。
低血糖になると、動悸・だるさ・頭痛・冷や汗・めまい・手指のふるえ・意識障害などが起きます。
要するに、後期(晩期)ダンピング症候群では、低血糖に基づく症状が出ます。
対処法
低血糖の状態なので、糖質の補給が必要になります。
ブドウ糖を静脈注射したり、 ビスケットやあめ玉や氷砂糖などを摂ったり、甘い飲み物を飲んでください。
その後、安静にしましょう。
オススメの甘い飲み物: ファンタグレープがおすすめです。ファンタグレープには、ブドウ糖が入っているので、低血糖をすぐに治してくれます。
予防法
第一に、食後2時間後くらいに炭水化物を食べましょう。
食後2~3時間後に起きる低血糖が原因なので、それを防ぐために菓子や果物、またはモチや麺類などの炭水化物を間食として食べるのをお薦めします。
次に、短時間で糖を摂り過ぎないようにしましょう。
後期(晩期)ダンピング症候群は、糖の急速な吸収により起きます。
特に後期(晩期)ダンピング症候群を引き起こしやすい糖は、単純炭水化物と呼ばれるブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、オリゴ糖などです。
従って、これらの糖を短時間で大量に摂取しないようにしましょう。
最後に、食後の運動は避けましょう。
食後すぐに運動すると、早期ダンピング症状を引き起こすだけでなく、低血糖を誘発してしまうのでやめましょう。
まとめ
ここまでの内容を簡単にまとめたいと思います。
はじめに「ダンピング」とは、食べたものが一気に腸へ流れ込むことを言います。
それによって引き起こされる様々な不快な症状を「ダンピング症候群」と呼んでいます。
早期ダンピング症候群
食後5~30分くらいに全身症状や消化器症状が出現。
原因:複数ありますが、腸に水分が多くなるため。
対処法:横になる。改善しない場合は、主治医に相談し薬物療法。
予防法:水分の摂取は少量にし、よく噛んでゆっくり食事。また少炭水化物、高たんぱく質の食事を心がけましょう。
後期(晩期)ダンピング症候群
食後2~3時間くらいで、脱力感・頭痛などの症状、ひどい時には倒れます。
原因:低血糖。
対処法:糖分の補給をし、安静にしましょう。
予防法:食後の運動は避け、食後2時間後くらいに炭水化物を食べましょう。また短時間で糖を摂り過ぎないように。
ダンピング症候群は、食事の摂り方が原因で起こっていることが多く、食事にひと工夫すると改善することがあります。
もしも症状が出てしまった時は、まずは食事を見直してみましょう。
それでも症状が治まらない場合は、薬物療法などもありますので、主治医に相談してください。
食事については、▼下の記事を参考にしてみてくださいね。
参考資料
(13) 退院後に起こる問題と対処法 胃切除後症候群とは 日本臨床外科学会
もっと知ってほしいがんと栄養のこと Cancer Net Japan
ダンピング症候群 MyMed
一周年おめでとうございます(^.^)
きっとお母様も喜んでいらっしゃる事と思います。 わたし自身、すい臓がんの治療についてまだまだ知りたいことがたくさんあります。そして、何か役に立つ様なことが出来ればと思うようになりました。 今、がんセンターなどのボランティアをしたいと思ってます。 主人のためにも何かと、考えている最中です。まだまだ先かもしれませんが。
このサイトも今後もっとたくさんの人に見ていただける事を願っています。
森様
ありがとうございます!
がんセンターなどのボランティア、素晴らしいお考えだと思います。
どんなことでも、その人にしか出来ないこと、その人だからこそ持てる考えがあると思います。
私たちも、森さんのことを応援しています:D
食後に倒れるほどに眠気に襲われますが、血糖値の問題とは思ってもいませんでした。病院でもそんな事言われていないので
タメになります
やす様
記事をお読みいただき、ありがとうございます。
ご参考になれば幸いです。
食後に強い眠気を感じるようであれば、ぜひ主治医の先生とご相談してみてください。
より良い解決法を提示してくださると思います。