緩和ケアって何?
「緩和ケア」と聞いて、どんなことをイメージしますか?
死の直前、つまり終末期に短期間だけ関わる医療だと思ってはいませんか?
「緩和ケア=終末医療」は誤解です。
では、「緩和ケア」って何でしょうか?
国立がん研究センターの運営するHPのがん情報サービスには、こう書いてあります。
緩和ケアの役割は、時期にかかわらずがんに伴う体と心の痛みやつらさを和らげることです。また、緩和ケアは、患者さん本人や家族が「自分らしく」過ごせるように支えることを目指します。
またWHO(世界保健機関)は、緩和ケアについて
WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年)
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。
としています。
とても簡単に言ってしまえば、「緩和ケアとは、患者さんやご家族のつらさを楽にして、生活の質を上げてくれる治療である」と言えます。
緩和ケアは、どんなつらさを楽にしてくれるの?
がん患者と家族が抱える苦痛には、4つの種類があると言われています。
- 身体的苦痛・・・痛みや吐き気、食欲低下、息苦しさ、だるさなどの体の不調。
- 精神的苦痛・・・気分の落ち込みや絶望感などの心の問題。
- 社会的苦痛・・・仕事、経済、家庭、相続といった社会的な悩み。
- スピリチュアルペイン・・・「死に対する恐怖」「こんな状態で生きて行く意味が見出せない」などの宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂の苦しみ。
これら4つの苦痛をまとめて「トータルペイン(全人的苦痛)」と呼んでいます。
実はこの4つの苦痛は相互に関係し合っています。
例えば、痛みが強くなると、がんが急に大きくなっているのだろうかなど不安感に苛まれ、精神的苦痛を誘発します。
という具合に、一方の苦痛が他方の苦痛を引き起こし、つらさに拍車をかけていることがあります。
従って緩和ケアは、1つの苦痛だけでなく、4つの苦痛(トータルペイン(全人的苦痛))を和らげていきます。
そして、最終的に患者さんとご家族の生活の質を上げることを目標としています。
例えてみるなら、こんな感じです。
緩和ケアというクレーンが、4つの苦痛(トータルペイン)を取り除く手伝いをしてくれます。苦痛が軽減されれば、生活の質も上がります。
このイメージ図のように、緩和ケアは多くの苦痛を和らげ、生活の質の向上もしくは維持の手助けしてくれます。
いつから緩和ケアは始まるのか
がんが見つかった時から、必要に応じて緩和ケアは受けるべきです。
がんと診断されたときには、ひどく落ち込んだり、落ち着かなかったり、眠れないことも多くあります。
この場合、精神的に苦痛を感じている上に、更に眠れなくなれば体の調子も悪くなるかもしれません。
また治療中には、抗がん剤や放射線治療では食欲がなくなったり、吐き気などの副作用が起こることもあります。
治療以外にも、がんによる痛みが強く出ることも考えられます。
このような状況で、患者さんもご家族も前向きに治療に取り組むのは難しいと思います。
そこで緩和ケアの登場です。
緩和ケアは、多様な苦痛を和らげ、また前向きに治療に取り組むのに役立ちます。
がんと診断された時から緩和ケアは必要な場合もあることを覚えておきましょう。
具体的に誰が何するの?
病院によって違いはありますが、がん診療に携わる医師、看護師、薬剤師、栄養士などが「緩和ケアチーム」となり、緩和ケアを提供します。
このチームが生活の質を向上させる手伝いをしてくれます。
身体的苦痛への対処
身体的苦痛には、がんの痛みや副作用の症状などがあります。
緩和ケアチームは、色々な身体的苦痛に対処してくれます。
例えば、がんによる痛みが強く出た時は、緩和ケアチームの担当医や薬剤師が、痛みを軽減する薬を処方するなど鎮痛するための治療を行います。
他にも、抗がん剤の副作用で食欲不振に陥ってしまった時は、緩和ケアチーム内にいる栄養士が食事内容や調理法についてアドバイスをくれます。
がんの痛みをコントロールするために、しばしば医療用麻薬が使われます。
ただ麻薬というと、麻薬中毒や最後の手段といったイメージがあるかもしれません。
しかし、世界における20年以上の経験から、がんの痛みの治療には、モルヒネなどの医療用麻薬による鎮痛治療が効果的であると証明されています。
なので、鎮痛効果を得るためにがんの初期から使うこともあります。
また誤解されているような麻薬中毒などの副作用は、医師の指示のもとに使用している限り、 認められないことが明らかになっています。
精神的苦痛への対処
がん患者さんやご家族の多くが気分が落ち込んだり、不安を感じます。
その時には、緩和ケアチームの心のケアの専門家が担当医や看護師と協力してサポートします。
社会的苦痛への対処
医療費のことや就労についてなど、社会的な悩みを抱える方も多いと思います。
その場合には、入院中、通院中とも担当医や看護師とソーシャルワーカーや緩和ケアチームのメンバーが協力してサポートしていきます。
また在宅療養の際には、訪問診療の担当医や訪問看護師、ケアマネジャー、市区町村の担当者がサポートします。
スピリチュアルペインへの対処
がんになると「自分の存在」や「生きる意味」などについて悩むこともあります。
そうした時には、緩和ケアチーム内の担当医や看護師と心のケアの専門家が協力してサポートします。
最近では、僧侶が緩和ケアチームに加わりスピリチュアルペインを癒す試みもあるようです。
詳しく知りたい方は、下のリンクをご覧ください。(4月15日の分に載せています)
緩和ケアを受けるには?
緩和ケアを受けたいと思ったら、まずは担当医や看護師に相談してみましょう。
そこで、どんな緩和ケアができるかお話くださると思います。
ここでは、どのような形で緩和ケアを受けられるのかを紹介します。
一般病棟における専門的緩和ケア(緩和ケアチームの居る病院へ行く)
全国のがん診療連携拠点病院には、すべて緩和ケアチームがいます。
ですので、緩和ケアを受けたいと思ったら、緩和ケアチームのいるがん診療連携拠点病院を受診するのは1つの手です。
これらの医療機関では、入院、通院治療を通じて緩和ケアを受けることができます。
がん診療連携拠点病院を探したい方は、下のリンクからどうぞ。
緩和ケア外来を受診する
緩和ケア外来は、通院中の患者さんに対して、院内の緩和ケアチームが行う外来です。
がん診療連携拠点病院では、緩和ケアを専門とする外来の設置が必須要件となっており、すべての患者は緩和ケア外来(あるいは緩和ケアチームによる外来診療)を受診できるようになっています。
ただ、緩和ケア外来がまだ開設されていない病院や毎日開かれていない病院も多いので、注意してください。
入院中に緩和ケアチームの診療を受けていた患者さんも、退院後引き続き緩和ケア外来で診療を受けられる場合もあります。
病院により緩和ケア外来を受ける条件があるので、担当医に相談してみてください。
緩和ケア病棟に入院する
緩和ケア病棟とは、緩和ケアを専門的に提供する病棟です。
緩和ケア病棟では、がんの進行などに伴う体や精神的な症状がある方が入院されます。
また、がんを治すことを目標にした治療(抗がん剤治療やホルモン療法、放射線治療や手術など)が困難となったり、あるいはこれらの治療を希望しない方を主な対象としています。
一般の病棟とは違う点がいくつかあります。
- 体と心の苦痛緩和に力を注ぐ
- 苦痛を伴う検査や処置を少なくしている
- 患者さんや家族がくつろげるデイルームがある
- 面会時間の制限が少ない
- 患者さんの家族が過ごしやすい設備がある
かつての緩和ケア病棟は、看取りの場の役割が大きかったのですが、近年では、痛みなどの症状が強い場合に緩和ケア病棟に入院し、症状が緩和されたら自宅に退院することが増えてきました。
緩和ケア病棟は、痛みなどの症状を和らげ、がんの治療を前向きに受けるための準備の場でもあることを理解してほしいです。
緩和ケア病棟を探す場合は、こちら 緩和ケア病棟のある病院を探す がん情報センター
自宅での緩和ケア(在宅緩和ケア)
自宅での緩和ケアでは、在宅療養についての専門的な知識を持った訪問診療医(かかりつけ医)や訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ホームヘルパーが協力してサポート態勢を整えます。
メリットは、自宅はリラックスできる療養環境であることや、患者さんやご家族のペースで生活できることなどです。
事前に訪問診療医などと緊急時の対応などを話し合っておくといいでしょう。
早期からの緩和ケアの重要性
アメリカでの早期緩和ケアと生存率の研究
2010年にアメリカのハーバード大学などの研究グループが、早期からの緩和ケアの重要性を示す研究結果を発表しました。
その研究とは、まず転移を伴う肺がん患者151人の患者を「標準的ケア+緩和ケア」と「標準的ケア」の2つの群にランダムに振り分けます。
「標準的ケア+緩和ケア」の群の対象者は、全員が診断時から定期的に緩和ケアの専門家の診察を受けました。つまり、早期から緩和ケアを受けたというわけです。
一方、「標準的ケア」の群の対象者は必要に応じて緩和ケアの専門家の診察を受けました。
元々この研究は、QOL(Quality of Life: 生活の質)とうつ病などの精神症状の予防を目的としたものでした。
その研究目的の通り、「標準的ケア+緩和ケア」群の患者は生活の質が高く、うつ病などの精神症状が少ないという結果でした。
それだけでなく、驚くべきことに早期から緩和ケアを受けた群の患者は、終末期に抗がん治療などを受けている割合が少なかったにもかかわらず、生存期間の中央値が統計学的に有意に長かったのです(11.6カ月vs 8.9カ月, P=0.02)。(下図参照)
引用元:緩和ケアについて知ろう がん情報みやぎ(運営:東北大学病院 がんセンター)
アメリカで行われた研究なので、国も違えば施設も状況も違うので、この結果だけで、緩和ケアの併用が生存期間を延長すると結論づけることは出来ません。
しかし、早期からの緩和ケアによって生存期間を延ばす可能性があり、少なくとも緩和ケアが生存期間を縮める可能性はほとんどないと思われます。
日本での早期緩和ケアと生存率の検討
もうひとつ、早期緩和ケアと生存率向上の関係を調べた事例について紹介したいと思います。
こちらは日本での調査です。
近畿大学医学部堺病院緩和ケア科の大塚正友准教授らが、同科へ入院し、死亡した事例(2007年10月〜2011年9月、201症例)から、がん患者に対する緩和ケアの早期かつ定期的な介入がもたらす影響を検討しました。
すると、進行がんの治療とともに、外来で7日以上の緩和ケアの診療を受けた患者の場合、6日以下の群に比べ12.5ヵ月の生存期間の延長が示唆されました。(下図参照)
引用元:知っておきたい「がん緩和ケア」の誤解 がん治療新時代WEB
ここから言えるのは、早くから定期的に行う緩和ケアが、全生存期間の延長につながっているかもしれないということ。
こちらは研究ではなく事例の検討なので、あくまでその可能性があるという話。
しかしながら、早期緩和ケアは生存期間の延長と深い関わりがあることに違いはなさそうです。
恐れずに受けよう緩和ケア
少し長い説明だったので、上記を簡単にまとめたいと思います。
緩和ケアとは、患者さんやご家族のつらさを楽にして、生活の質を上げてくれる治療です。
そして患者さんやご家族には、4種類の苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン)があると言われています。
これら4つをまとめて、「トータルペイン」と呼びます。
また緩和ケアは、がんが見つかったときから必要に応じて受けるべきです。
この緩和ケアを実行するのは、医師、看護師、薬剤師、栄養士などからなる「緩和ケアチーム」です。
緩和ケアを受けるためには、まず主治医に相談してみてください。
受ける方法としては、緩和ケアチームの居る病院へ行く、緩和ケア外来を受診する、緩和ケア病棟に入院する、自宅での緩和ケア(在宅緩和ケア)の4つがあります。
最後に、早期から緩和ケアを受けると生存期間が長くなる可能性を示唆する研究がある・・・という話をもって、まとめを終わりにしたいと思います。
この記事を読むことで、皆さんの緩和ケアに対する理解が深まることを願うばかりです。
緩和ケアは、決して死ぬ前だけに行われる治療ではないこと、そして緩和ケアを受けることは生活の質の向上に直結します。
どうか恐れずに緩和ケアを受けてください。
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